困ったと目の前の相手の主張にサンジは天を仰いだ。
「何がダメなんだ!」
むっとしたように睨み付けてくる黒い目にサンジはハアッと大きな溜め息をつくしかない。
「ゾロはいいんだろう?」
視線も険しく目の前で手足を踏ん張って立つルフィにますます困惑するだけだ。
「いいじゃねえか、してやれよ。クソコック。」
「ゾロ!!」
ニヤニヤとした笑みを向け、欄干に座りこちらを眺めているゾロにサンジは声を荒げる。
「キスぐらいいいだろ?してやれよ、ルフィもしてくれって言ってんだし。」
「おう、いいぞ、してくれ、サンジ。」
興味津々、目を輝かせているルフィにサンジはヒクリと頬を引き攣らせ、楽しげに様子を伺っているゾロを睨み付ける。
「いや、ルフィ・・・キスってのはな?・・・興味本位でするもんじゃねえんだ。将来好きな女の子とだな?」
「俺はサンジが好きだぞ?問題ねえ!」
ドーンと胸を張って返事をしたルフィにサンジはますます頭を抱え、耐え切れなくなったのかクククと小さな声をあげてゾロが笑い出す。
「ゾーロォー・・。」
「ばーか・・・・自業自得だろうが、クソコック。」
昼寝をしていたゾロの寝込みを襲ったのはサンジの方だ。何度見られるから止めろと言っても聞かず、船尾でゾロを組み敷いてその唇を奪っていたのはサンジ自身だ。
「それとも・・。」
目を期待に輝かせているルフィと、恨めしげな視線を向けてくるサンジを眺めて、ペロリとゾロが唇を舐める。
「俺がルフィにす・・」
「ダメだ!!ダメだダメだ!!!」
ゾロの言葉を最後まで聞かず、大きな声で遮ったサンジにルフィの目が丸くなり、一拍置いてゾロが今度こそ遠慮なく大きな声をあげて笑い出す。
「・・・ルフィ・・。」
「・・んっ?なんだ、ゾロ?」
ゲラゲラと涙まで浮かべて楽しそうに笑うゾロにルフィは呼ばれるままに小さく首を傾げる。
「テメェがよくても俺はよくねえ。だから、諦めろ。」
ちょいちょいとサンジを指差し、目尻の涙を拭ったゾロに、ウウーンと唸ってルフィが腕を組む。だって、なんだかルフィの目にはゾロがとても気持ちよさそうに見えたのだ。
「コレは俺のだ。」
ニンマリと笑ったゾロの顔にサンジは赤くなり、ルフィは仕方ねえなあと大きな声を出した。サンジも好きだがゾロも好きだし、他人のものを取り上げるほど了見は狭くないつもりなのだ。
「分かった。サンジはゾロのだな?」
「ああ。」
本人抜きで立場確認が行われ、目を白黒させている間に納得したのか、ルフィがニッと笑うと、頭の麦わら帽子を押さえ、船首に向かって飛んでいく。すぐにウワアとかヒヤアとか悲鳴が上がっていた所を聞くと、ウソップやチョッパーの元へ狙い違わず飛んでいったらしかった。
「・・・・お前ねえ・・。」
「あん?・・・本当のことだろうが。」
困ったように呟いたサンジにゾロは楽しげに笑う。その上機嫌な姿に近寄れば、コイコイとばかりに指先でかすかに濡れた唇へと導かれた。
しっとりと重ね、次は薄く開かれたその中へ。
「いいのか?」
しっかりと背に腕を回し、ゾロの唇を堪能しながらサンジは囁くようにして問いかける。それにゾロの瞳が楽しげに細められた。
「いいんじゃねえの?邪魔は入らねえよ。ルフィの許可も出たしな。」
ペロリと覗いた赤い舌に下唇を舐められて、一気に体温の上昇を感じる。ゾロさえいいなら、さて続きをと腹巻の中へと滑り込まそうとした手首を軽く掴まれた。
「・・・時間切れだ。」
「はっ?」
ニヤニヤとやはり楽しそうなゾロの顔に首を傾げたサンジは、すぐに風に乗って聞こえてきたおやつコールにガックリと肩を落とす。
もともと、ルフィは空腹からサンジを探しに来て、二人の姿を発見、そしてキスがしてみたいという発言に繋がったのだ。
「あーあ・・・せっかく・・。」
なんとなく今なら最後まで抵抗なくいけそうだったのにとサンジは心の中で溜め息をつくと、諦めたようにゾロから手を離してキッチンへと向かったのだった。
~FIN~
なんとなく小話
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