ハラハラと風に乗って降りかかった薄いピンクや黄色の花びらにナミは頭上を振り仰いだ。
「・・・・どこから?」
ライスシャワーならぬフラワーシャワー。楕円形の細い花びらがひらひら、ひらひらと風にのって飛ぶ姿は綺麗なのだが、それが頭上からというのは解せない。なにせ、現在ナミが歩いている場所は教会の近くではなく、港の、詳しく言うなら自船が泊まっているその真下なのだ。
「?・・・・サンジ、く、ん??」
太陽が眩しいと目を細め、その輪の中でキラリと光を反射してみせた人物にナミは眉を顰める。
しまった帰ってこなきゃ良かったと心の中で溜め息を零してみるものの、両手いっぱいの荷物を持ったままもう一度商店街へ繰り出すつもりはない。素早く部屋に行き、荷物を置いて立ち去れば大丈夫かと出来るだけ静かにサニー号へと乗り込んだ。
「お帰りなさい、ナミさん。」
「・・・・・・・・・・ただいま。」
ああ、やっぱり見つかっちゃった・・と、引き攣った笑みを返してナミは笑顔で両手いっぱいの花束を抱えている人物に返事を返す。
ピンクに黄色、赤にオレンジ、ガーベラの花束を抱えた金髪コックはその姿と相俟って本人が形容するプリンスに相応しい立ち姿だ。
「早かったんですね。」
にっこりと笑みを向けてくるサンジにナミはええとだけ返して、さっさとこの場を立ち去ろうと背を向ける。そんなナミに慌てたように駆け寄ってきたサンジはやっぱり両手にいっぱいの花を抱えていて、一部花びらが欠けた花を見つけ、先程のフラワーシャワーの正体はやはりこれかとナミは小さく息を吐き出す。
「荷物お運びしますよ。」
「・・・・・・・・・・・その両手で?」
いつものようにナミの手から荷物を受け取ろうと声を掛けてきたサンジにナミはつい呆れたような声を出してしまう。思わず口にしてしまったのだが、ああしまったとナミはサンジの顔に浮かんだ表情に遠慮なく溜め息をついてみせた。
恥らう乙女もかくやとばかりに大の男がほんのりと両頬を染めてみせたからだ。
「あら、そういえばゾロは?」
ここまでくれば毒を喰らわば皿までと自虐的に甲板に見当たらない男の名前を出してみる。
「あ、・・・あいつはですねぇ・・。」
頬を染めたまま、大事そうに腕の花束を見つめたサンジにナミはやっぱり聞かなきゃ良かったかもと深い後悔の溜め息をつく。
「俺にこれをくれてから。今は展望室でトレーニングを・・・。」
そう貴方の愛おしいダーリンはあの上なのねとナミはチラリと頭上を見上げる。本当にトレーニングをしているのかそれとも邪魔の入らない惰眠を貪っているのかは分からないが、この気色悪いコックを作り上げた男はあそこなのねとナミは舌打ちの一つもしたいところだった。
「似合うって・・・それであいつが。」
なにやらつらつらとサンジが話していたのだが、軽く流していたナミは続けて言われたサンジの言葉にはああ~と大きな溜め息をついた。
「花びら占いが好きで終わったらアイツからキスしてくれるって約束してくれて。」
「・・・・・サンジくん・・・・。」
頬を染めてキスを・・というサンジとその両手の花束を見比べてナミは哀れみの視線を送る。
キスどこかアンナコトやコンナコトを平気で皆に隠れて行いながら、キス一つでゾロに自由を与えるなんて、可愛くて馬鹿な男とナミは心の中で呟くと当初の目的どおり荷物を持って部屋へと向かう。
「アタシなら最初の一本だけ使って、あとは飾っておくけど。」
ドサドサとベッド脇に荷物を放り出して、皺になりそうな服を取り出してはクローゼットに掛けていく。その際にポロリと口から漏れた感想にナミは苦笑を浮かべた。
なにもゾロは全部の花を使って占いしろといったわけではないのだろうし、それを勝手に全部だと思い込んだのはサンジの都合だ。
「まあ、いいんだけど。」
最後の花びらが『キライ』で終わった場合、どういう経由でプレゼントしたのかは不明だがせっかくのゾロからの花束をすべて花びらに変換してしまったサンジはどうするだろう。
「晩御飯、食べて帰って方がいいかもね。」
その時のサンジの落ち込みようが容易に想像できて、ナミは手持ちのお金に食事代をプラスしていく。あと一時間もしないうちにロビンとカフェで待ち合わせをしているから、一緒に夕食を食べて帰ろうと小さな鼻歌を歌う。女の子二人で男たちの不憫な姿を想像しながらイチャイチャするのも楽しいかもしれないと笑う。
「いってきまーす。」
身軽になったナミは頭上から降り注ぐ色とりどりの花びらに軽く手を振ると軽い足取りでもう一度商店街へとくりだしたのだった。
そして数時間後。
女の子だけの楽しい時間に満足しつつサニーに帰ってきたナミとロビンを迎えたのは涙まじりの男たちの絶叫だった。
『 腹減ったーー!! 』
本日のメニュー
・ ロールパン 1個
・ 氷を浮かべた水 1杯
~END~
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10/7 拍手メッセージをくださった貴方に捧ぐ
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