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更新案内&管理人の日常光景です
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 ハラハラと風に乗って降りかかった薄いピンクや黄色の花びらにナミは頭上を振り仰いだ。
「・・・・どこから?」
 ライスシャワーならぬフラワーシャワー。楕円形の細い花びらがひらひら、ひらひらと風にのって飛ぶ姿は綺麗なのだが、それが頭上からというのは解せない。なにせ、現在ナミが歩いている場所は教会の近くではなく、港の、詳しく言うなら自船が泊まっているその真下なのだ。
「?・・・・サンジ、く、ん??」
 太陽が眩しいと目を細め、その輪の中でキラリと光を反射してみせた人物にナミは眉を顰める。
 しまった帰ってこなきゃ良かったと心の中で溜め息を零してみるものの、両手いっぱいの荷物を持ったままもう一度商店街へ繰り出すつもりはない。素早く部屋に行き、荷物を置いて立ち去れば大丈夫かと出来るだけ静かにサニー号へと乗り込んだ。
「お帰りなさい、ナミさん。」
「・・・・・・・・・・ただいま。」
 ああ、やっぱり見つかっちゃった・・と、引き攣った笑みを返してナミは笑顔で両手いっぱいの花束を抱えている人物に返事を返す。
 ピンクに黄色、赤にオレンジ、ガーベラの花束を抱えた金髪コックはその姿と相俟って本人が形容するプリンスに相応しい立ち姿だ。
「早かったんですね。」
 にっこりと笑みを向けてくるサンジにナミはええとだけ返して、さっさとこの場を立ち去ろうと背を向ける。そんなナミに慌てたように駆け寄ってきたサンジはやっぱり両手にいっぱいの花を抱えていて、一部花びらが欠けた花を見つけ、先程のフラワーシャワーの正体はやはりこれかとナミは小さく息を吐き出す。
「荷物お運びしますよ。」
「・・・・・・・・・・・その両手で?」
 いつものようにナミの手から荷物を受け取ろうと声を掛けてきたサンジにナミはつい呆れたような声を出してしまう。思わず口にしてしまったのだが、ああしまったとナミはサンジの顔に浮かんだ表情に遠慮なく溜め息をついてみせた。
 恥らう乙女もかくやとばかりに大の男がほんのりと両頬を染めてみせたからだ。
「あら、そういえばゾロは?」
 ここまでくれば毒を喰らわば皿までと自虐的に甲板に見当たらない男の名前を出してみる。
「あ、・・・あいつはですねぇ・・。」
 頬を染めたまま、大事そうに腕の花束を見つめたサンジにナミはやっぱり聞かなきゃ良かったかもと深い後悔の溜め息をつく。
「俺にこれをくれてから。今は展望室でトレーニングを・・・。」
 そう貴方の愛おしいダーリンはあの上なのねとナミはチラリと頭上を見上げる。本当にトレーニングをしているのかそれとも邪魔の入らない惰眠を貪っているのかは分からないが、この気色悪いコックを作り上げた男はあそこなのねとナミは舌打ちの一つもしたいところだった。
「似合うって・・・それであいつが。」
 なにやらつらつらとサンジが話していたのだが、軽く流していたナミは続けて言われたサンジの言葉にはああ~と大きな溜め息をついた。
「花びら占いが好きで終わったらアイツからキスしてくれるって約束してくれて。」
「・・・・・サンジくん・・・・。」
 頬を染めてキスを・・というサンジとその両手の花束を見比べてナミは哀れみの視線を送る。
 キスどこかアンナコトやコンナコトを平気で皆に隠れて行いながら、キス一つでゾロに自由を与えるなんて、可愛くて馬鹿な男とナミは心の中で呟くと当初の目的どおり荷物を持って部屋へと向かう。
「アタシなら最初の一本だけ使って、あとは飾っておくけど。」
 ドサドサとベッド脇に荷物を放り出して、皺になりそうな服を取り出してはクローゼットに掛けていく。その際にポロリと口から漏れた感想にナミは苦笑を浮かべた。
 なにもゾロは全部の花を使って占いしろといったわけではないのだろうし、それを勝手に全部だと思い込んだのはサンジの都合だ。
「まあ、いいんだけど。」
 最後の花びらが『キライ』で終わった場合、どういう経由でプレゼントしたのかは不明だがせっかくのゾロからの花束をすべて花びらに変換してしまったサンジはどうするだろう。
「晩御飯、食べて帰って方がいいかもね。」
 その時のサンジの落ち込みようが容易に想像できて、ナミは手持ちのお金に食事代をプラスしていく。あと一時間もしないうちにロビンとカフェで待ち合わせをしているから、一緒に夕食を食べて帰ろうと小さな鼻歌を歌う。女の子二人で男たちの不憫な姿を想像しながらイチャイチャするのも楽しいかもしれないと笑う。
「いってきまーす。」
 身軽になったナミは頭上から降り注ぐ色とりどりの花びらに軽く手を振ると軽い足取りでもう一度商店街へとくりだしたのだった。









 そして数時間後。
 女の子だけの楽しい時間に満足しつつサニーに帰ってきたナミとロビンを迎えたのは涙まじりの男たちの絶叫だった。

『 腹減ったーー!! 』



 本日のメニュー

・ ロールパン 1個
・ 氷を浮かべた水 1杯




~END~

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10/7 拍手メッセージをくださった貴方に捧ぐ

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 困ったと目の前の相手の主張にサンジは天を仰いだ。
「何がダメなんだ!」
 むっとしたように睨み付けてくる黒い目にサンジはハアッと大きな溜め息をつくしかない。
「ゾロはいいんだろう?」
 視線も険しく目の前で手足を踏ん張って立つルフィにますます困惑するだけだ。
「いいじゃねえか、してやれよ。クソコック。」
「ゾロ!!」
 ニヤニヤとした笑みを向け、欄干に座りこちらを眺めているゾロにサンジは声を荒げる。
「キスぐらいいいだろ?してやれよ、ルフィもしてくれって言ってんだし。」
「おう、いいぞ、してくれ、サンジ。」
 興味津々、目を輝かせているルフィにサンジはヒクリと頬を引き攣らせ、楽しげに様子を伺っているゾロを睨み付ける。
「いや、ルフィ・・・キスってのはな?・・・興味本位でするもんじゃねえんだ。将来好きな女の子とだな?」
「俺はサンジが好きだぞ?問題ねえ!」
 ドーンと胸を張って返事をしたルフィにサンジはますます頭を抱え、耐え切れなくなったのかクククと小さな声をあげてゾロが笑い出す。
「ゾーロォー・・。」
「ばーか・・・・自業自得だろうが、クソコック。」
 昼寝をしていたゾロの寝込みを襲ったのはサンジの方だ。何度見られるから止めろと言っても聞かず、船尾でゾロを組み敷いてその唇を奪っていたのはサンジ自身だ。
「それとも・・。」
 目を期待に輝かせているルフィと、恨めしげな視線を向けてくるサンジを眺めて、ペロリとゾロが唇を舐める。
「俺がルフィにす・・」
「ダメだ!!ダメだダメだ!!!」
 ゾロの言葉を最後まで聞かず、大きな声で遮ったサンジにルフィの目が丸くなり、一拍置いてゾロが今度こそ遠慮なく大きな声をあげて笑い出す。
「・・・ルフィ・・。」
「・・んっ?なんだ、ゾロ?」
 ゲラゲラと涙まで浮かべて楽しそうに笑うゾロにルフィは呼ばれるままに小さく首を傾げる。
「テメェがよくても俺はよくねえ。だから、諦めろ。」
 ちょいちょいとサンジを指差し、目尻の涙を拭ったゾロに、ウウーンと唸ってルフィが腕を組む。だって、なんだかルフィの目にはゾロがとても気持ちよさそうに見えたのだ。
「コレは俺のだ。」
 ニンマリと笑ったゾロの顔にサンジは赤くなり、ルフィは仕方ねえなあと大きな声を出した。サンジも好きだがゾロも好きだし、他人のものを取り上げるほど了見は狭くないつもりなのだ。
「分かった。サンジはゾロのだな?」
「ああ。」
 本人抜きで立場確認が行われ、目を白黒させている間に納得したのか、ルフィがニッと笑うと、頭の麦わら帽子を押さえ、船首に向かって飛んでいく。すぐにウワアとかヒヤアとか悲鳴が上がっていた所を聞くと、ウソップやチョッパーの元へ狙い違わず飛んでいったらしかった。
「・・・・お前ねえ・・。」
「あん?・・・本当のことだろうが。」
 困ったように呟いたサンジにゾロは楽しげに笑う。その上機嫌な姿に近寄れば、コイコイとばかりに指先でかすかに濡れた唇へと導かれた。
 しっとりと重ね、次は薄く開かれたその中へ。
「いいのか?」
 しっかりと背に腕を回し、ゾロの唇を堪能しながらサンジは囁くようにして問いかける。それにゾロの瞳が楽しげに細められた。
「いいんじゃねえの?邪魔は入らねえよ。ルフィの許可も出たしな。」
 ペロリと覗いた赤い舌に下唇を舐められて、一気に体温の上昇を感じる。ゾロさえいいなら、さて続きをと腹巻の中へと滑り込まそうとした手首を軽く掴まれた。
「・・・時間切れだ。」
「はっ?」
 ニヤニヤとやはり楽しそうなゾロの顔に首を傾げたサンジは、すぐに風に乗って聞こえてきたおやつコールにガックリと肩を落とす。
 もともと、ルフィは空腹からサンジを探しに来て、二人の姿を発見、そしてキスがしてみたいという発言に繋がったのだ。
「あーあ・・・せっかく・・。」
 なんとなく今なら最後まで抵抗なくいけそうだったのにとサンジは心の中で溜め息をつくと、諦めたようにゾロから手を離してキッチンへと向かったのだった。


~FIN~

なんとなく小話

あ、雨だとポツンと頬に受けた水滴にサンジは空を見上げた。
先程までカラッと晴れていた青空にいつのまにやら厚い雲が顔を出し、薄く灰色に色づくそれは太陽の光を遮っている。
「うわっ!!」
ポツン。
頬に触れた一滴に馬鹿みたいな間抜け面を空へと向けていたサンジの頬にポツポツと大きな粒があたり始め、あっという間にそれは痛みを伴うほどの大きさで降り注ぐ。
バシバシと叩くように空から降り注ぐ雨粒は大きく、短時間それに晒されただけだったサンジの服はすでにぐっしょりと水分を吸って色を変えてしまった。
「あーあー。」
胸ポケットの煙草は箱ごと濡れてしまい、ふにゃりとした手触りをサンジの指先に伝えてくる。
長い航海、それほど多く買っているわけではない貴重な嗜好品。それを無駄にしたことよりも、滝のように降り注ぐ雨のせいで白く煙る世界にサンジははあっと溜め息を零した。
「しまったなあ。」
「何がだ。」
はあっと吐き出した息に混じって零した言葉に背後から訝しげな声がかかる。
それにサンジは軽く肩を竦めると手にしていた煙草の箱をぶらぶらと左右に振ってみせた。
「一つ、おしゃかだ。」
いかにも残念だと未練たらしく言ってみせたサンジに緑の瞳が丸く開かれる。
「まあ、いいじゃねえか。たまには我慢しろってことだ。」
丸くなった瞳が今度は可笑しげに細められ、その唇が悪戯っぽく歪められる。
むわりと身体にまとわりつく湿度は外の雨だけのものだとは思えなかった。
「他人事だと思いやがって・・・。」
鍛錬を終え、汗を流していたのかかすかに石鹸の香りを纏った剣士はサンジの言葉に軽く肩を竦める仕草をしてみせる。ほんのりと色づく肌の色と、熱く湿った香りにサンジは殊更顔を顰めてみせて、細く扉を開いて激しい雨音に溜め息を零す。
「おい・・・。」
薄く開いた扉の隙間、白く煙る世界に目を向けていたサンジの背後から日に焼けた腕が伸びて開いた扉を押さえる。
「足元濡れてるぞ。」
サンジの手首を無造作に掴んだ熱い手のひらと、耳元で呟かれた言葉に濡れたシャツの中で身体の熱が上がるのを感じる。
急に降ってきた雨を避けて、咄嗟に選んだ場所にゾロが居たのは誤算だった。
バシャバシャと派手な音を立てている雨音に遮られて小さな声は互いに届かない。
「どうせ濡れてんだ。そのまま風呂入ってこいよ。」
キィと小さな軋みを残して閉じられた扉にサンジはしまったなあと心の中で呟いた。
「・・・・・お前のあとで?」
「はあ?俺は上がったからもう入んねぇよ。」
扉を眺めながら、溜め息混じりに問いかけたサンジに不思議そうなゾロの声が答えてくる。それにサンジは苦笑を浮かべながら、そっと先程ゾロに掴まれた右手首を左手の中指でそっとなぞった。
熱い熱い、ゾロの手の感触がしっとりと濡れたシャツの上から押し当てられ、その熱にクラクラしそうだ。
「ほら、早く入って来いよ。」
ぐいっと乱暴に来ていたシャツを剥かれ、サンジは本当にしまったなあと心の中で頭を抱えた。
大好きな相手と密室に2人きり。
相手はけっして自分のことを意識しているわけではないが。
「ゲッ、冷めてぇ!・・・とっとと風呂入っ。」
遠慮なくサンジの上半身からシャツを剥ぎ取ったゾロが何気なく触れた腕の冷たさに驚いて声を上げたのを合図に、サンジは雨で冷えたその腕をゾロへと伸ばした。
まあるく大きく見開かれた翡翠の瞳を間近で覗き込んで、自分とは違い熱い肌に手のひらを当てる。
「バッ、てめぇ、なにやって。」
「・・・シッ。・・・・・・黙って・・。」
驚き、逃げようとした身体を引き寄せながらサンジは誘うようにもう一度薄く開かれた唇を奪う。
外は激しい雨。
多少の物音は掻き消されて誰の耳にも届かない。
サンジの行動についていけなかったゾロの思考の混乱の隙をついて、その身体をゆっくりと己の身体と沿わせながらサンジは小さく笑った。
大好きな人と密室でふたりきり。
風呂上りのゾロと咄嗟に駆け込んだこの部屋で顔を合わせた時は確かにしまったとサンジは思ったのだが、これはこれでチャンスなのかもしれないと、混乱している相手を見下ろして目を細める。
雨が止むまでのほんのわずかな時間。
一時しのぎだとしても、ゾロを抱きしめる機会が訪れたことにサンジは小さく笑って抱きしめる腕の力を強めたのだった。


END++
 我輩の名はニャンジ・・あっ、違った。
 えーえー、ゴホン。
 我輩の名はサンジ。
 ニャンとこの世に生まれて十九年。
 尻尾の先は一つだが、これでもれっきとした、由緒ただしい化け猫一族の末裔だ。
「おおーい、グルマユ~。」
 ガラガラと大きな音を立ててアルミの大きな窓が引き開けられて、そこから一人の男が顔を出した。
「おーい、飯だぞー、グルマユー。」
 だーかーら!!俺の名前はグルマユじゃねえって何度言ったら分かるんだ!!
 窓を開け、通りに向かってグルマユグルマユと連呼している緑の髪の男の名はゾロ。半年程前から俺の飼い主という立場になった男だ。
「グルマユ~。」
 ニャンと生まれて十九年。俺には生まれたときからサンジとう名前がある。ゾロの前の飼い主であった彼女も、そのまた前の飼い主の彼女も、俺のことはきちんとサンジと呼んでいた。それなのに・・・・。
「チッ、こんだけ呼んでも帰ってこねえって事はいねぇのか、グルマユの奴。」
 だ・か・ら!!!
 俺の名前はグルマユじゃねえって言ってんだろうがぁ!!思わずゾロの言葉に反応し、シャアっと背中の毛を逆立てて怒鳴りかけ、俺は今の自分お置かれている状況にハッと身を固くする。
「あ・・・またね。・・・サンジ・・くん。」
「・・・・あっ・・。」
 ぎこちない笑みを向けて魅力的なグレーの縞模様の彼女が駆けるようにして、立ち去っていく。あああ・・・、最近知り合ったレディの中でも一番若くて美人な彼女はこの辺り一帯の雄猫達のアイドルだ。飼い猫の彼女は滅多に外に出てこないし、他の雄猫を出し抜いて2人っきりで会う機会なんてそうはない。何度か話しかけて、やっと月夜のデートの約束を取り付けたのに・・・。
 俺はキッと開いた窓を睨み付け、その窓際まで伸びている大木を一気に駆け上がり、その隙間から部屋の中へと飛び込んだ。
「あ?居たのか・・。」
 チリンと最近首に着けられた鈴が鳴って、その音に気付いたゾロがのんきな声を出して振り返る。
 ウルサイ、テメェのせいでふられたじゃねえか!と怒鳴りたいのをグッと堪えて蒼い瞳で睨むだけに留める。第一に俺はまだ、人間の言葉が喋れねえ。
「そっちにあるぞ。」
 どうやらゾロも夕食らしく、動かしていたその手を止めて俺に話しかけ、そしてまた箸を動かす。それにプイッと顔を背けて、いつも食事が用意されている台所の片隅へと向かって俺は歩いていった。
 ツンツンと尻尾を揺らしながら歩いていった俺にどうやらゾロが小さく笑ったらしかったが、それに反応を返すのも腹立たしく、俺は気付かないふりで用意されていた餌鉢へと向かった。
 普段構う素振りは一切見せないくせに、たまにだが、分かってやっているんじゃねえかと思うぐらいいいタイミングでゾロは俺の交流の邪魔をしてくれることがある。もっともただの猫として振舞っている俺の邪魔をゾロがしているとは思えない。ゾロは俺がそこらの猫たちと違うとは露ほども疑っていないはずだ。
 ああー、何だよコレ。俺は小さな器に盛られたそれを見て小さく肩を落した。
 何度言っても、この飼い主は俺の好みを覚えやしねえのはよしとしよう。しかし、今夜の飯に限っては文句を言ってもいいんじゃないだろうかと俺は疲れたようにそれを見つめた。
 たぶん俺用の餌を切らしたのだろう。鮭おにぎりを半分に割って軽く解したものが可愛らしい猫の絵柄のプリントされたその小皿に入っていた。
 いや、まあ、俺は普通の猫じゃねえし?別に食事にこだわるつもりもないよ?
 ただ、普通の猫に人間の食い物ってのは塩分が多くて、身体に悪いってコイツは分かってねえんだろうかと溜め息混じりにゾロのほうを振り返る。
 食事が終わったのか見るともなしにテレビ番組のチャンネルを変えているゾロの目の前、ガラスで出来たローテブルの上には空になったと思われるコンビニ弁当が2つ。ゾロもこだわりがないというか、食べれればなんでもいいと思っているのか、皿に乗った料理を食べている姿など数えるぐらいしか見たことがない。
 はあっと溜め息をついて俺は諦めてシャケおにぎりに噛り付いた。
 おにぎりは美味かったけれど、俺は意思の疎通の図れない飼い主と、化け猫という立場を隠して飼い猫を装っている現状に深くふか~く、溜め息をついたのだった。


<おわり>

「ないなら、いい。」
海の上で二週間目。まだまだ食料に余裕はあるが嗜好品である、酒に制限が掛かった。
広い海の上、何が起こるかわからない。用心に越したことはないと決めたことだが、サンジの説明にほんの少し眉を寄せて、あっさりと踵を返したゾロにサンジは煙草のフィルターを噛み締めた。
「しばらく・・・そう、あと2、3日、我慢してくれ。」
「ああ・・・。」
背を向け歩き去っていくゾロにそう声を掛けて、サンジはふうっと大きな溜め息を零す。
予定していたより進行速度が遅いと、朝食後ナミが知らせてきた。
優秀な航海士であるナミであっても、急な天候による航路の変更による日程の誤差まであらかじめ予測することは出来ない。それでも、彼女の腕があるから、最低限の変更でこの船は進むことが出来るのだと、そうこの船に乗るクルーなら誰もが思っている。
『予測ではもうそろそろ夏島の領域に入ってないといけないんだけど。』
困ったように雲を眺めるナミの横顔に魅入ってサンジはゆっくりと煙を吐き出した。
『どれぐらい遅れてるんですか?』
船の航海が予定より遅れていることでたちまち影響を受けるのはサンジが預かる厨房だ。
もちろん、予定の航海日数より多めに計算して食料は積んでいるし、現地調達である程度まかなうように心がけてもいる。だが、そういった食料以外の嗜好品と呼ばれるものはあらかじめ決められた量しか船に乗せることは出来ないのだ。
『そうね。2日・・・いえ、3日かしら?』
『ああ、それぐらいなら全然大丈夫だよナミさん。』
3日程度であれば備蓄を切り崩せば十分賄える日程だ。もっとも3日を一週間と言われても十分やっていけるだけの知識も技術もある。
幸いなことにこの海域は魚が豊富で釣り糸を垂れればほぼ釣り上げる事が出来る。さっそく船長以下、食欲旺盛なお子様たちに可能なだけ魚を釣らせようとサンジはにっこりとナミに笑いかける。
『ごめんね。サンジくん。』
申し訳なさそうに言ったナミにサンジは笑って、早速とばかりに甲板で遊んでいた三人に食糧確保の使命を与えたのだ。
まさに入れ食いでドンドン上がってくる魚を手際よく加工し保存食も作り、またその魚たちは本日の夕食としてクルーの腹を満たしたのだ。
その夕食の席でそれぞれのグラスに注がれたのはレモンを浮かべ、冷たく冷やされた水だった。
それに一瞬だけ目を細めたものの大人しく口にするゾロに何故かサンジは不満を覚え、夕食後船尾にて鍛錬を始めたゾロの下へわざわざ足を運んだのだ。


「ないなら、いい。」
言い訳がましく言ったつもりはなかったのだが、ナミさんが、予定が・・と、口にしたサンジにやはりほんのすこし眉を動かしただけでゾロは肩に担いだ錘をもって歩いていってしまう。
その背に日程を言い訳がましく告げたのはサンジの自己満足でしかない。
「・・・・クソッ!」
小さな声で吐き捨てて、サンジは暗い海へを目を向けた。
聞き分けなくごねられても困るのだが、あっさりと興味なさげに頷かれるのも腹立たしい。
いや、違うのだ。
もし少しでもゾロが残念そうに欲しがる素振りを見せたなら、サンジはしょうがない奴だと言いながら、ゾロにグラスの一杯、酒瓶の一つも提供しただろう。
本当に切迫していれば説明の一つもされないのは今までの経験からゾロも知っているだろう。
「・・・・クソッ。」
これが自分で、物が煙草なら、サンジは欲しいと強請ってみせただろう。
海に向かって悪態をつき、サンジは渋々と己のテリトリーへと足を向けた。
明日の下準備を抜けてまでゾロの元へと足を運んだ己が滑稽だとサンジは背を丸めて、キッチンへと向かう。
扉を開き、腕まくりをし、さて、続きに取り掛かるかとシンクと向き合ったとき、静かに背後の扉が開かれた。
「どうした、マリモ。酒はいいんだろうが。」
ゴトゴトと重い靴音をさせて近付いてくるゾロにサンジは面倒くさそうに声を掛けた。
「ああ。水か。水ならそこのコッ。」
「サンジ。」
ペタリと熱い手のひらをシャツ越しに感じてサンジはビクリと背を震わせた。
滅多に呼ばない名前を口にして、触れてくるゾロの意図が掴めず、その眉と同じく思考をグルグルとまわす。
「サンジ。」
はっきりとした声で再度名前を呼ばれてサンジはギチギチと音がしそうなぐらい不自然な動作でゆっくりと振り返った。
「酒がなければ駄目か?」
間近で合わさった翡翠の瞳は微かな熱を孕んで潤んでいるようだった。
「駄目なのか?」
サンジが振り向いたことで宙に浮いていたゾロの手がそっと己の頬に当てられるのをサンジは呆然と見つめる。
「・・・・サンジ。」
やはり熱いと触れられた手のひらを感じながら、サンジは急激な乾きにゴクリと喉を鳴らした。
頬を撫でたゾロの手のひらを熱いと、サンジは喘ぐように息を吐き出す。
その吐き出すために開かれた薄い唇をゾロの親指がゆっくりと辿り、そっと覗いた舌先を撫でていく。
「ゾロ!!」
「んっ・・。」
舌先にゾロの指先が触れたと思った瞬間、サンジは目の前の身体を掻き抱いていた。誘うように開かれたゾロの唇に己の唇を重ね、濡れた熱い息を吸い上げるようにして口付けを交わす。
縋るようにシャツを掴んだ熱い手のひらを己の手のひらで覆い、サンジは腰を引き寄せ、なおも深くゾロを貪る。
「・・・ふぁ、・・っ。」
息継ぎさえろくに許さず、酒の味のない口付けを堪能する。
やがて力が抜けきりサンジの腕に身体を預けてきたゾロの髪に唇を寄せてサンジはかすかに口元に笑みを浮かべた。

そう、そうだ。
酒が欲しいのはゾロではない。
酒の力に、酒のせいにして、ゾロを欲したのはサンジ自身だった。
だから、酒がなければそれでいいといった態度をとったゾロに苛立ち、不安を感じてしまった。
己さえもいらないと言われた様で堪らなかった。

「テメェってやつは・・。」
「・・・んっ?」
欲に潤み、サンジに身体を預けているゾロの髪をそっと撫でてサンジは小さく笑みを零す。
気付かぬうちにコイツの熱に中毒になっていたらしいと、サンジは強請るように開かれた唇を己の唇で塞いだ。
すでに抜き差しならない状況まで追い込まれている己を振り返ってサンジはそれもまたいいかと笑う。
「好きだよ、ゾロ。」
重ねあう瞬間に吐息に乗せた告白にゾロがゆっくりと目蓋をおろす。
サンジの望むままに唇を与えるゾロを抱きしめて、その熱い身体に少しずつ温度を上げ始めた己の身体をゆっくりと重ねていったのだった。


END++



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